2019年 台風15号、19号、大雨による東日本大水害と2015年10月 台風18号による戸塚町浸水被害が教えてくれるもの

台風15号、19号、それに続く大雨で犠牲になられた方々に弔意を表すとともに、災害に遭われた方々に対し、復旧に向けた動きが加速されることを祈っています。

大きな自然災害が連続して起きたことは、日本中に多くの教訓を残したものと言えます。
河川の流域の地形が持つ意味の重要さも改めて知らされました。
戸塚町では、今回は大きな水害に至るまでの大雨は降りませんでしたが、昔から守られてきた柏尾川周辺の流域地形が大切であることを再認識いたしました。
広重の戸塚宿の浮世絵にありますように、柏尾川周辺流域の地形は昔と大きく変わらず
今も残っています。

東海道五十三次 戸塚宿 広重絵 (戸塚駅地下改札出口の壁画を撮影2019.11.10)

約100年前の大正11年の戸塚の地形は、国土地理院のホームページから索引できます。

柏尾川の流域の多くは田んぼで、現在と地形(高低差)そのものは大きく変わって
いません。

次の図は現在の地形図です。
(国土地理院の地図に各地点の海抜(m)を書き加えたもの)


中外製薬西側敷地の北側(旧日立製作所正門前)が戸塚町で最も低く、さらに構内に向かって下っていることがわかります。
戸塚町に降った雨水は、市の下水処理システムで処理できなかった分は地形に沿って南に下り、旧日立製作所構内に向かって流れ、その構内は大きな調整池の役割をはたしていました。
今回の台風15号の大雨で、戸塚町の浸水被害はありませんでしたが、敷地内には町の雨水が流れ込み巨大な調整池の機能をはたしていることが実証されました。

台風15号による冠水(中外製薬西側敷地を東北側から南西方向を見る。R1.9.9 10:45撮影)

1. 洪水被害

今回 多くの河川で堤防が決壊し、町や田畑が水没しました。
住民の多くは、自宅の二階に避難し難を逃れました。ところが、あらかじめ洪水警報や避難勧告がでていても、洪水が起きたときにそれを検知し、すぐに住民に連絡する手段はありません。水が床下から、床上に上がり、それに気づいた人があわてて二階にあがったという避難の仕方であったようです。

1)浸水上昇スピードが速くなる

柏尾川の洪水時、洪水ハザードマップ(H26横浜市発行)に記載された戸塚町周辺地域の浸水上昇スピードは、中外製薬の西側敷地の2m嵩上げにより浸水地の空間体積が減ることにより、従来の2倍以上になると考えられます。
浸水に気がついても、二階に逃げる間がなくなる恐れがあります。

2)浸水の深さが従来よりも60〜80cm深くなる

洪水時、小さな盆地状になっている戸塚町周辺地域の浸水の深さは1〜2mとされています。ここに、広さ80,000㎡の西側敷地の2m嵩上げにより、大きなプールに大きな石が入った形となり、浸水の深さはさらに約60cmから80cm上昇しようとする動きとなります。
実際には、地形に合わせ、浸水面積が広がる動きも起こります。
最高水位は洪水時の柏尾川の水面と同じとなると考えます。
2m嵩上げによる影響は極めて大きく、洪水時、周辺住民の命を従来以上に危険にさらすものとなります。

3)中外製薬による洪水評価

一方、中外製薬による洪水評価では、敷地嵩上げによる影響はわずか、3.7cmの水位上昇にとどまるとし、横浜市は洪水への影響を問題としていません。
しかし、これは、嵩上げが少ない東側敷地周辺の上倉田町や、吉田町、矢部町などの広大な両岸の浸水領域を含んだ地域の水位上昇の平均値です。
盆地状になって、深さがある西側敷地周辺の土地の水位(水深)上昇を個別に考慮していないというまったく評価に値しない内容です。
また、従来、洪水はほとんど片岸の氾濫です。今回の台風19号と大雨による洪水70余箇所でも、大半が片岸の氾濫でした。
頻度が極端に少ない両岸氾濫のケースで、しかも各地域の水深の変化を個別に捉えず、広大な地域の水位上昇の平均値が僅か3.7cmという洪水評価は、西側敷地2m嵩上げの影響を周辺の住民に対し少なくみせるためのものと考えられます。

2. 内水被害

今回の台風15号、19号とそれに続く大雨で、多くの地域が内水被害にあっています。
戸塚町では、今回浸水被害は出ませんでしたが、H26年10月の台風18号では、柏尾川が、氾濫危険水位まで水位上昇し、町は内水被害に見舞われました。

台風18号 戸塚町の浸水被害(H26.106)


戸塚小学校前

柏尾川(氾濫の危険)

台風18号(H26.10.6 戸塚ポンプ場)の実績雨量と戸塚区内ハザードマップの想定雨量

中外製薬西側敷地内に設ける貯水槽(雨水流出抑制槽)は、敷地内に降る雨を処理するためのもので、約6,000立方メートルの容量があります。これに敷地外の雨水も取り込むには小さすぎ、無理があります。内水浸水被害増大を阻止できる規模ではありません。

敷地内に降る雨を取り込むための貯水槽の容量としては、ハザードマップで想定した76.5mm/Hの雨、わずか1時間分のみに対応したものにすぎません。
実際に降った雨としてH26.10の台風18号の大雨は、50mm/Hに満たない大雨量ですが、2時間から3時間にわたり降り続けました。
降雨開始から1時間程度で、この貯水槽から雨水が溢れでると考えます。

汲沢町はじめ丘陵地帯に降った戸塚町周辺の雨水は、市の下水処理システムで処理できない多くの量が、この付近で一番低い旧日立正門前に集まります。
その雨水が中外製薬西側敷地内の雨水流出抑制槽でも処理できなくなると、この付近一帯は約50cm浸水します。
一方、南に向かって、雨水を流れるように計画した敷地西側の緑道へは海抜50cmの逆勾配があるため、旧日立正門前に溜まった雨水は流れ出ることができません。

尚、この貯水槽からは、22mm/H 相当の雨水を公共下水道に流せる機構(オリフィス)があるので、敷地外の雨を取り込む余裕があるということですが、その公共下水道も戸塚ポンプ場につながれており、大雨での効果は限定的です。
戸塚ポンプ場はじめ、市の下水処理システムで町に溢れた雨水を処理しきれない状況(台風18号)では、雨水流出抑制槽から下水処理システムに向かって流した雨水は、処理できずに、その同じ量が、また周囲に溢れでることになります。

3.先人達の水害対策の尽力を継承し、持続できる住まいの環境を!

戸塚駅西口 柏尾川鉄橋脇の石碑

度重なる洪水に対し、住民は幾多の努力を重ね、大正14年には、豊塚堤が完成しました。
戸塚駅西口の柏尾川にかかる鉄橋脇の石碑(写真)には先人達が治水対策に尽力してきた系譜が刻まれています。

80,000㎡もの広大な土地を2m嵩上げし、人為的に水害被害を現在よりも増大させることは許されるものではないと思います。
益々、気象変動が厳しくなっていく中、人工的な開発を優先するのか、持続できる環境を次世代に引き継いでゆくのかが問われています。


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